立川志の輔@三鷹市芸術文化センター2009/06/06 07:19

先週の談春に引き続き、今週は三鷹で志の輔である。まず驚いたのは、チケット発売日、インターネット経由でのチケット争奪戦の激しさは談春と同様だったのに、実際の客層が全く異なったことだ。

今までに行った立川流のどの会でも、「簡単に笑ったら損をする」くらいにある種張り詰めた雰囲気があったのに、今夜の客は総じて温い。

普通、立川流の高座で駆け出しの前座による開口一番で笑いが取れる訳がないのに、かなりの受けが取れている。
確かに志の輔はテレビへの露出もあって全国区、落語とはとか立川流っていうのはねと講釈を垂れたがる客層よりもウィングが広いけれども、今までに聴いた公民館タイプの独演会のどれよりも客が甘いのである。普段ならちょっとくすぐられたくらいじゃ笑えませんという客ばかりなのに、今回はくすぐられたら素直に爆笑する客が多くてちょっととまどった。

閑話休題
開口一番は志の彦の「狸の札」。狸賽のはじめのところ、狸がお札に化けることができるということを示すあたりで無理矢理さげてしまう噺だが、やっと人前で話すことを許されたといった初々しい高座だった。旋律としてはかなりうまく語れていたが、息継ぎができていない。フレーズとフレーズの切れ目、大きく息を吸うべきところで余裕がないから次を喰ってしまい、客にも息を継がせない。歌としては人前に出られるレベルになっているので、息継ぎがもうちょっとうまくなれば結構聴ける噺家になるだろう。


で、通常の独演会なら開口一番で前座が出てきたら御大が登場するはずのところ、なぜかまた前座(立川メンソーレ)が登場。
志の輔の弟子のうち、自分の高座名だけ「志」の字がついていない。それは「こころざし」がないのかななんてつかみはしっかりできている。

その後の口ぶりだともう一人前座が控えているような感じだったのでおそらく志の輔の入りが遅れているためにつなぎで出てきたんだと思う。

「たらちね」を語ったが輿入れのあたりまではかなり聴かせてくれた。そこいらの師匠の弟子だったら間違いなく二つ目、下手をすれば真を取っていてもおかしくないくらいのできだった。ところが輿入れあたりからテンポが悪くなる。前の志の彦同様、息継ぎがおかしくなって先へ先へと走り出し、早く終わりたい・逃げ出したいといった気配になってしまった。もともと繋ぎで上がったが、次の準備ができたので早く降りろという合図があったのかもしれない。

で志の輔登場

一席目は新作の「異議なし!」
マンションの自治会がエレベータに監視カメラをつけるかどうかという問題をネタに、彼の新作の眼目である不条理に突き進んでいく。枕から噺に入るまで30分近くいつものように漫談風に語っていたが、なんとなく小屋に入るまでの自分と高座に上がった自分の切り替えがなかなかついていない切り替えを今一生懸命やってますとい感じで、いつもと違って慌ただしかった。下げまで持って行ってもなんとなく「まだ慌てています」という雰囲気が抜けなかった。
前の仕事が押していたのか、道が混んでいたのか

休憩を挟んで次は「五貫裁き」
大岡政談ものだが、枕に3分もかけずに噺に突入。やはり入りが遅れたので、お尻に合わせて調整したのかなと思う。
ネタとしては可もなく不可もなく、「いつものように釈ダネ風はとりあえずやりましたよ」というレベルで、不完全燃焼。
いつもの釈ダネ系であれば、客の笑いなど置き去りにして噺にぐいぐい引き込み、普通の落語家なら笑いを取りに行くところで、会場水を打ったような静けさを引き起こすほどの力業は見せてくれなかった。

今までも中野ゼロや調布グリーンホールなど、都心に近い手軽なドサ廻り系のホールで聴いたことがあるが、今回は入りが遅れた(らしい)ことも含め、気合いが今ひとつ入らなかったのかなと思う。

とまぁ否定的な表現ばかりだけど、実際の一挙手一投足はすごかったです。全体を振り返ると、細かいところに引っかかるところがあるけどきっと何か事情があったのかな、なんか進行を急いでいたんじゃないかという印象です。それでも払った木戸銭以上の藝を見せてもらったという満足感は変わりません。

立川談春@三鷹芸術文化センター2009/05/30 11:30

前から3列目、ちょっと右側に外れているがしょせん定員300名ほどの小さな小屋なのでまったく気にならない。

演目は前座の小春が「金明竹」、その後談春で「不動坊」、休憩をはさんで「木乃伊とり」。

昨年大井町での三三、喬太郎、談春の三人会で聴いたらくだのような演者も客も体力を消耗するような大ネタではなく軽めの噺だけれどもそれぞれ登場人物が多く、演じ分けるのがかなり大変そうな演目を軽妙に語ってくれました。

不動坊の中に出てくる噺家をこぶ平の正三の物まねで登場させた瞬間、思わず大受けしたんですが、けっこうわからなかった人が多いみたいでした。

三鷹芸術文化センター星のホールは今時の興業にとっては小さすぎる小屋かもしれないけれど、客席と舞台が手を伸ばせば届きそうなくらい近くて今まで行った小屋の中で大好きなところの一つです。

喜劇日本映画頂上決戦 伊東四朗一座・熱海五郎一座2009/05/17 22:00

伊東四朗熱海五郎一座パンフレット
青山劇場にて2日目の舞台を観た

東京の喜劇人、特に伊東四朗を慕う人々大集合の一座による舞台である。もう何年も伊東四朗と三宅裕司を中心にした舞台が演じられてきているが、最初の頃は二人芝居に小倉久寛がからむ程度のこじんまりした舞台だった。多分三宅裕司が東京の喜劇を継承させることを願って、仲間たちを募り、大がかりな舞台に発展させてきたのだろうと思う。

現在メディアにはびこっている関西系の「お笑い」とは全く異なる世界が展開される。

料理の東西比較で西は薄口で上品、東は辛口で下品みたいに言われるが、こと笑いに関してはこれが全く逆になる。とにかく出演者みんな品がいいというか軽いのである。

ただし西の笑いとは言ったが、西に関しては80年代の漫才ブーム以降の吉本限定かもしれない。たとえば桂米朝の軽さというか上品さにならべられる東の芸人は、今は亡き古今亭志ん朝くらいか。

吉本に代表される「お笑い」は関西と言っても京都から大阪、神戸に至る東西方向のセンスではない。大阪市の南部から堺・岸和田和歌山に至る南北方向と神戸以西の関西の田舎のセンスではないかという勝手な仮説というか印象を長いこと持っている。

細かい感想はまたあらためて記したいと思うが、本日の最高の収穫はやはり生で「生きている」中村メイコを観ることができたことだ。古川ロッパその他戦中から戦後,きら星のごとく輝いていた喜劇人たちと共演していた彼女がまだ健在で、今おそらく東京現役で最高クラスの喜劇人たちと共演している。それだけで幸せな経験をさせてもらった。